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ぼくとも。 |

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Posted by 春乃 綺 on  | 

Shiny Days 2 (太空)


マックから出た途端に早足になって、まもなくそれは小走りになった。
目頭が熱くなって、キュッと下唇を噛みしめる。気付いたら、小走りは駆け足へと変わっていた。

走って走って、足が痛みを訴えて、走るのが辛くなって。そこで、ようやく空は立ち止まった。
ヒールのサンダルが予想より足に負担をかけていたようだ。ズキズキとした鈍い痛みに、足が悲鳴を上げていた。これではもう走れないどころか、歩くのも覚束ないだろう。

仕方なく、どこか休むところは、とキョロリと辺りを見渡すと、歩いて数十歩のところに公園があるのが見えた。
よろよろと足を庇うようにその公園まで歩いて行って、空は入ってすぐのところに古ぼけたベンチを見つけたのだった。
ベンチに腰掛けて、サンダルの紐を解いてみる。両足には擦れて赤くなっているところが点々とあった。

「痛っ…」と今更なことをようやく口にして、空は情けなく笑った。膝を抱えるように座ったためか、いつの間にか目からポロポロと零れ落ちていた涙が傷口に数滴落ちて染みた。
そのままにしておくのは余りにも痛々しいので、数枚ほど家から持参してきた絆創膏を鞄から取り出し、傷口の上に貼っていく。
でも、傷口の数は多過ぎたようで。

「あーぁ、足りないや……」
空は相変わらずの泣き笑いだった。なんだか更に自分が情けなくなってしまい、きつく抱えた膝の間に顔を埋めた。その肩はちいさく震えていて。
ベンチの上で一人膝を抱える少女の姿は、酷く痛々しく見えた。




* * *




どのくらいそうしていただろうか。辺りが暗闇に支配され始めて、ようやく空は膝の間に埋めていた顔を上げた。

「もうすぐ夜だわ…。帰らなきゃ、お母さんが心配する…」

空の母は元よりとても心配性だった。しかし、自身の少女期のことで、さらにその心配性に拍車をかけたことも、彼女は既に知っていた。そして、空はそんな母をとても愛しく思うのだ。
愛してくれている。私も母のそんな気持ちが嬉しい、と。
そんな母にいらぬ心配をかけるのは、空の本意でなく。もう帰ろうと、空がサンダルを履こうとした時。

突然、後ろから強く肩を掴まれた。ビクリと細い肩が震える。ゼエゼエとした荒い息遣いが耳元で聞こえた。
それは、明らかに男性特有の力強さと声の低さだった。見知らぬ男性に後ろから、強くつかまれている。そう悟った空の心に、恐怖心が一気に押し寄せた。
しかし、その恐怖心は次の一言で霧散する。

「――-やっと、みつけた」

聞き覚えがあるその声に、驚き後ろを振り返る。そこには額から大粒の汗を流して、いつになく息を乱した太一が立っていた。


どうして、ここにいるの?


空は呆然として、太一を見つめていた。その間、乱した息を整えている太一は腰を折り、膝に手をついていたため、目線は合わない。

ただただ、動転して、頭が追い付かなかった。
太一がここにいる理由も。こんな汗だくになって、空を探していた理由も。

と、それまで顔を伏せ、息を整えていた太一が、ガバリと首を上げた。彼の目は、茫然自失の空を真っ直ぐと見据える。


「―――――ようやく、見つけたぜ、そら」
太一の強い視線に射貫かれて、空は小さく息を呑んだ。顔が自然と強張り、喉の奥がつまっていく。

もう、なぜ彼がここにいるかなんてどうでもよくなった。とにかく、今この場所から、一刻も早く逃げ出したかった。
羞恥。衝撃。悲観。そんな感情が一切合財、心の中をごちゃ混ぜにして、空を襲う。
冷静さなど、既に欠片もなかった。ただ、目の前の彼から逃げ帰りたい、ただそれだけだった。

「…っ」

空は太一に背を向け、裸足の足を地面へと向ける。そのまま走り出そうとした。しかし、太一の行動の方が速く。
彼は、空の右肩に置いた手に力を込め、左手で空の手を掴んだ。そして抱え込むような形で空の身体を軽く拘束する。それでもなお、混乱した空は抵抗を続ける。

「やだっ!!離して!!!」
「逃げるな!!!」

太一の鋭い怒号で、それまでジタバタと抵抗していた空の動きが止まった。

「逃げるなよ―――――頼むから―……」

掠れた声で呟かれた、彼らしくない弱々しい言葉を聞き留め、空はまたゆっくりと後ろを振り返った。太一は黙ったまま、苦しそうに下を向いている。
自身が太一にそんな顔をさせていることに、空も顔を暗くさせた。


やがて「…わるい」と呟いて、太一は空を掴んでいた手を離した。
彼に掴まれていた己の腕をそっと掴んで、空も下を向いて、小さく首を横に振る。

「(太一は何も悪くない)」

そう言おうとして、でも出来なかった。鳴咽が邪魔して言葉が口から出てこない。
空の鳴咽を聞くたびに、太一はどんどん痛々しい表情へと変わっていった。
空もどんどん悲しみの方へと感情が動いていく。


ごめん。
ごめんね太一。


何度も何度も謝っても音にはならない言葉たちが心の中で死んでいく。
だから空は言葉に出来ない気持ちを身体に託すしかなかった。

そうして空は、太一の前で初めてボロボロと涙を流したのだった。



己のシャツ越しに縋り付く形で泣き続ける空を、太一はベンチごしに抱きしめた。その暖かい腕の中で、空は自分が太一のあの時の言葉を聞いて、心が悲鳴を上げた理由にようやく気付いた。

デートかと尋ねられて、「あー…うん、まぁな」と照れもせず、ただ苦笑いで片づけられた自分は、太一にとってそれだけの存在でしかないと知ってしまったから。
そのことが自分にとって、とてもショックなことだったのだろう。
だから空はあの時、張り裂けそうなくらい胸が痛んだ。

つまり、それだけ自分は太一のことを――――――――。




そこまで考えて、空は静かに目を暝った。そして太一の胸をトンと、軽く押す。

もう。もう、充分だ。


「ありがとう、太一」
「――は?何を……」
「もう大丈夫。ごめんね、突然泣いちゃうなんて、」
「いや、だから、空――」
「でもっ、もう、そのうち自然に止まるから、もう泣かないから、だから…」

もう放っておいてくれて、いい。


目を腫れさせながらも、空は綺麗な笑顔で太一に笑いかけた。
太一は愕然した顔をした後、さ迷っていた手をギュッと握り締め。

「ふざけんなよ……お前」
そう放たれた低く唸るような声は、二人の曖昧な距離の間に割って入っていった。


「勝手に自己完結させて、何が大丈夫だっ。何が放っておいてだよっ!!!」
「太…一…?」
「ふざけんな…っ。そんなの、お前を好きな俺はどうしたらいいんだよ…」

太一の口から零れた一言に、空は度肝を抜かれた。作って貼り付けた笑顔が、見る見るうちに剥がれて、地に堕ちる。


今、彼は何て言った…?


空が固まる中、太一は握り締めた拳を僅かに震わせて、歯を食いしばった。


こんなのって。こんなのってないだろ。
今、このタイミングでそれを告げることがどんなにズルいことか、俺にはちゃんとわかっている。
でも、空を、この大事な女を僅かにでも引き留められる言葉を、今の俺はこれしか持ってなかったから。


「―――俺は、お前が好きなんだよ」
終わらせたかった。この不毛な恋心を。他の誰でもない―――――己自身の手で。




* * *




そもそも今回太一が空を遊びに誘ったのは、ここ暫く会っていなかった幼馴染みに会う為というより、今もなお恋焦がれている相手に無償に会いたくなったからだった。

久しぶりに会った彼女は以前より大人っぽく綺麗になっていたが、性格や仕草・癖などはちっとも変わっていなくて、太一は見惚れると同時にホッとした。
自分の知らない彼女(そら)を見てみたいと思う半面、自分の知らない彼女(じょせい)に変わっていくことに恐れを感じていたからだ。
要は、空は自分だけのもんだという、男の身勝手で幼稚な独占欲である。

元ダチに会った時もそうだった。
「武之内、なんか綺麗になったなぁ」と感嘆するそいつに、アイツは俺のものだ!!と豪語したくなるのを懸命に抑え、必死に笑顔を作った。


デートか?と聞かれて、曖昧に答えるしか出来なかったのは、それを否定したくない本音とただの友人であるという事実の二つが攻めぎあった結果である。

「(好きだった。それだけでよかったとは言わない。でも、それよりも空の隣にいたかったんだ)」


しかし、太一は己の恋の見込みのなさを空の口から先程聞いた。

放っておいてほしい。自分はもう大丈夫だから、と。

それは空からの最期通達だと太一は受け取った。初めて己の前で泣いてくれた、弱みを見せてくれたことに、嬉しさを覚える間もなく、ばっさりと一刀両断されたのだ。


「(―――じゃあ、隣で空の悲しみを受け止める男(ヤツ)は、一体誰なんだよ。俺の以外の、他の誰か、なんだろう?)」


だったら、自分の手で壊してやろうと思ったのだ。居心地のいい距離感や、気の置けない幼馴染という間柄を捨ててでも、太一は己の恋心をとった。せいぜい、身勝手な男だと罵ってくれ。そう毒づいて。


「俺はお前が好きなんだよ」

もう一度太一の口が出た言葉に。空は口許を手で覆って、目を見開いたままでいた。
半開きの口から「うそっ…」と漏れて、パタパタと涙が頬を伝う。

「―――――ホントに決まってんだろ」
誰がこんな嘘つくかよ。顔を歪めて、そう言い切った太一に、空の心の箍が外れた。

ひどく泣きじゃくりながら、太一の服を掴み、その胸に縋った。
目に見えて、太一が狼狽する。少し身動ぎする彼から、決して離れないよう、ベンチから少し乗り出した。

「え、えぇ…?そ、そら…?」
「――わ、たしも…」

震える声と一緒に涙が後から後から溢れる。それを止める術なんて、もうなく。

「すき」

情けなくヘロヘロに揺れた声だった。が、太一が聞き取ったのは、確かに己と同じ気持ちのそれだった。
太一は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、二三度瞬きをした。

「そら…?」
「うん」
「お前、俺が好きなのか?」
「…うん」
「え、マジ?」
「うんっ」
「うわ…っ。マジかよ――――」

顔を赤らめながら、太一が口許を手で覆う。空はきょとんとした顔で太一を見上げてから、真っ赤な顔の太一を見、目尻に涙を浮かべて、笑った。


「―――――ホントに太一が好きよ」





* * *





「ほら、おぶされ」

そう言って、太一はベンチに座る空の前でしゃがみ込んだ。

「いっ…いいよ、私重いし」
「馬っ鹿。お前が重いはずないじゃん」
「――――!!!っでも…」

慌ててサンダルを履こうと、足を地に降ろすが。そのサンダルはいつの間にか地べたの上でなく、太一の手の中にあった。
返してと抗議しようとして、眉をあげて太一を見ると。

太一はしゃがみ込んでいた体を半分起こして、空の額に口を軽く押し付ける。そして空を真っ直ぐ見据え。

「いいから乗れ」
太一の行動と真剣な口調に空はただ驚いて、「…はい」と言うしかなかった。



昼間より少し暗くなった家までの道のりを二人分の長い陰を作って歩く。

久しぶりにおぶさった太一の背中は記憶にあるものより随分大きくて。
それでもその温かさは全く変わっていなくて、空はふいに何だか泣きたくなった。

「あっ…1番星」
太一が呟いた言葉に空を見上げる。

赤と濃紺に染められた大空に一つ目の星が輝きを放っていた。月もまだはっきり出ていない空になんだかその星は少し気が早過ぎたようだ。
淋しげな光を宿すその星は、先程までの自分とちょっと似ていた。


「………あと少ししたら月出るかしら」
「その前に他の星が出てくんじゃね?」

ほらと指差されたところには橙色の一際眩しい星がもう一つ顔を出していた。
しばらくしたら月も出て来るだろと笑う彼に、空は目を細めて笑う。


「明日は晴れかしらね」
「だといいな」










「好きよ、太一」
「ん、俺も、空」


私たちは今日、幼馴染から恋人になった。



- - - - - - - - - - - - - - -



長らく、大変長らくお待たせしました…!むしろ、まだ待っている人はいるのか。
太空は悲恋が多い中、これはちゃんとハッピーエンドです。私の小説の中ではとても珍しい(コラ)。
太一さんが偽物臭くて、ホントすいません。空ちゃんがだいぶ乙女で、すいません。



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Category : ss
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