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ぼくとも。 |

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Posted by 春乃 綺 on  | 

青空の向こうへ行けたら(太一+子供たち)



はぁはぁと息を乱しながら、長く続く石の階段を登る少年が一人。
トレードマークのゴーグルを青いバンド越しに頭に付け、茶色のクセの強い髪の毛を走る度にぴょんぴょんと跳ねさせる。
少年は目指していた。去年の夏に行った、キャンプ場の奥にある、あの祠。
初めて自分のパートナー、いやもう一人自分ともいえる存在と会った場所へと。





青空の向こうへ行けたら






「太一」
部屋の戸口で自分の名前が呼ばれたのは、太一がまだ自分のベッドの中でまどろんでいる時だった。
(なんだよ、今日は休みだろ…?)
返事をするのを億劫に感じながら、それでも返事をしないと後が怖い。太一は寝返りをうって、顔を母の方に向けた。
「んー、なんだよ」
「お雑煮出来たから起きてらっしゃい」
そう言ってから、太一の母―裕子は台所へと戻っていく。それを目の端に捕らえつつも、 太一はベッドの中で寝返りをうち、また安眠の態勢へ戻る。休日万歳。寝過ごし万歳である。
と、そこで母が言ったある単語に気がついて、太一は他人事のように呟いた。
「今日は正月、か」
気持ちのいい微睡みが波を引いたように遠ざかっていった。それでも、なんだか起きる気にもなれず、しばらくゴロゴロとベッドの中で寛いでいると、台所から「太一!」と母が再度自分を呼ぶ叫び声が聞こえてきて。そろそろ起きないと、八神家の雷様がお怒りになる。それは自分にとっても、あまりよろしくない。
そこまで考え、太一は、
「はぁい!起きるよ!」
あぁ、もう、わかったよと、やっとのことで起き上がったのだった。



太一がダラダラと台所へと入っていくと、テーブルについて雑煮を食べていたヒカリがこちらに目を向けた。
「あ、お兄ちゃん、起きたんだ」
「んーまぁな」
歳のわりに落ち着いている妹に適当に返事をして、太一はヒカリと向かい側の椅子に腰かけた。
お母さーん、お兄ちゃん起きたよー、とヒカリがガスコンロと向かいあっている為に、こちらに背を向けている裕子へと声をかける。
はいはい、と裕子は通常は味噌汁を入れるお椀を太一の前へと置いた。
「冷めないうちに食べちゃいなさいよ」
餅が二枚入ったそれは温かい湯気を上げながら、太一の食欲を誘った。
「はーい、いただきまーす」
がつがつとお雑煮を食べ始めた太一を裕子は呆れ眼で見やった。ヒカリまでもが苦笑いを浮かべて、
「お兄ちゃん、ここ最近寝てるか、食べるかしか、してないよね」
と随分辛辣なことを言い放ってくれる。そんなことないというのに、全く失礼な妹である。
「というか、お正月なんだから他にやること、というか言うことあるでしょ?」
裕子が大袈裟に溜息をついて太一を促した。少し考えれば、裕子が言っている内容はすぐ思い当たるわけで。
「あけましたおめでとうっ!!」
無邪気な笑顔を浮かべ、若干違う言い回しで新年のあいさつを言う太一に、裕子とヒカリはそろって溜息をつくのだった。


雑煮を食べてお腹が膨れた太一が席を立つ頃には、ヒカリはもう既に食べ終わっていた。そしてそんな彼女はというと、ソファに座って正月恒例の年賀状に目を通していた。
「お兄ちゃんにも来てるよ」
はい、と手渡された葉書。心なしか去年より増えている気がするその束をパラパラと流し読みしていく。
すると、去年では絶対にくることがなかったであろう名前をいくつか見つけた。
石田ヤマト、泉光子郎、城戸丈、太刀川ミミ、高石タケル。
"あんなこと"がなければ、これほどまでに親しくならなかったであろう名前達。あの冒険で知り合った名前もその中には多い。
太一はなんだか少し可笑しくなった。性格も下手したら住む場所さえ違う自分達なのに、きっとこの関係はずっと先の未来まで続いていくことが簡単に想像できる。不思議な縁だよなぁ、と感慨深くさえなった。
太一はぱらりとまた一枚葉書をめくった。そこにあったのはいつもと少し書き方が変わった空からの葉書だった。
綺麗な字でサラサラと書かれたそれからは前までの男っぽさなど微塵も感じず。なんだか空が女の子らしくなったようで、太一は面映ゆさから、ほんのちょっとだけ笑った。


ひとまず読み終わった葉書を机の上に放り、太一はヒカリの隣に座った。隣のヒカリは、まだ嬉しそうに葉書を眺めている。
そんな彼女の手の中にあるのは、あのときの最年少コンビの片割れからの葉書で。そういえばヒカリは歳が同じだからか、タケルとやけに仲がよかったことを思い出す。
なんだか兄として複雑な心境になりつつ、太一はふぅと息をついた。
と、その時それまで台所で朝食の片付けをしていた裕子がリビングに顔を出した。
「太一もヒカリも親しい人に挨拶行った方がいいんじゃないの?」
「えー年賀状書くのに?」
そう言ってヒカリがちょっと不満を漏らす。新年早々、出かけるのが面倒くさいのだ。自分もそれには大いに同意するが。
「それに正月から来るなんて迷惑だって言われるのがオチだぜ?」
脳裏にグチグチと文句を言う金髪の少年の姿が浮かんだ。新年早々、あの説教は勘弁してもらいたいところだ。
「まぁ、それもそうよねぇ」
ヒカリと太一の文句に、裕子も納得したように頷く。しかし、ふと思いあたったことがあったのだろう、でも、と言葉を続けた。

「中には年賀状出せない子だっているでしょう?」

裕子の言葉に太一は少し息を呑んだ。
年賀状を出せない大切な存在。でも今すぐ会いたい、存在。それは――。
「俺ちょっと出掛けてくるっ!」
太一は座っていたソファから飛び降りた。思い立ったらすぐ行動。太一の美徳の一つである(ただし本人曰く)。
すぐ傍に掛けてあった上着をひっかけながら、靴を履き、玄関から飛び出す。太一!??という裕子の声が聞こえたが、太一は振り向かずに走りだした。
途中全力疾走したので胸がいたくなったが、そんなことは些細なことだった。

どうして忘れていられたんだろう?
あの大切な存在を―。






キャンプ場の石段を上がりきり。乱れた息を整えながら、太一は祠の周りを見渡す。
そこはあの時のように雪なんか積もってなくて、オーロラなんか現れてなくて…。
「ちきしょ…」
分かってはいたのだ。ここは東京。
雪なんか滅多に降らないし、ましてオーロラなんて現れるわけがない。

それでも期待したのだ。だってあいつは俺の大切な相棒だったから。
「…アグモン―」
会いたい。
会いたいよアグモンに。

太一が震える声で小さく呟いた言葉に答えてくれるあの陽気な声はなく。それでもその場に立ち尽くすしかない太一に、掛けてくれる声はあった。

「なにやってんだよ、お前」

驚いて振り向くと、そこにいたのは金髪の少年。あの時から太一の親友だと自他共に認めている存在だった。
「ヤマト…」
「お前馬鹿か?親御さんやヒカリちゃんに心配かけて、俺達まで巻き込んで」
きっと全速力で走ってきたのだろう。ぜぇぜぇと息を荒くしながら、こめかみからは冬では不釣り合いなくらい大量の汗が流れている。
少し折った膝に両手をついて息を整えるヤマトを、太一はただ呆然と眺めていた。

なんでここに。
だって今は正月で、ふつうは家でゆっくりしているはずで。

太一が微動だにしないで、そんなことを考えていると、それまで顔を俯けていたヤマトがすっと顔を上げた。もの言いたげな青の瞳に射貫かれて、太一は少し肩を震わせた。
「…っの馬鹿」
吐き捨てるようにそう言ったヤマトに、太一は何も言い返すことができなかった。しかし、ヤマトは太一の様子なんか知ったこっちゃないといった様子で息を深く吐いた後、淡々とした口調で続ける。
「…会いたいのがお前だけだと思うなよな」
「……………」
「俺だって、会いたい」
ヤマトは苦しげに顔を背けた。それを見て、太一ははっとした。

――――そうだ、俺は、相棒(アグモン)はいなくても、"仲間"がいたんだ。

その事実に思い至って、太一は目頭が熱くなる感覚に陥った。そうすると、ヤマトから太一の方へ腕が伸びてきて。

「…何泣いてんだよ、馬鹿野郎」
ヤマトにそう言われてから、太一は自分が泣いているということに気付いた。肩をぽんぽんと叩かれる。そこでやっと、太一は泣き声混じりの呻き声を出せたのだ。



しばらくヤマトの隣で泣いて、やっと泣き疲れた頃、ヤマトがポツリと呟いた。
―――「届けてみるか」と。
最初は”何”を届けると言っているのか、わからなかった。しかしヤマトが懐から一枚の紙を取り出して、何かの形に折り始めた時、ようやくヤマトの言葉の意味が分かった。
「紙ひこうき?」
「そっ」
ヤマトが折り終わった紙ひこうきを宙に向かって勢いよく投げる。それはくるりと一回転してから、数メートル先にカサリと落ちる。
「届くかもしれないだろ?」
あいつらにな、とニヤリと悪戯っ子のような笑みを見せる親友の顔を十秒程見つめた後、太一はふいに笑いが込み上げてきた。
「おっ前、さすが俺の親友だな」
「…?どういう意味だ?」
「たまに突拍子のないこというよなってコ・ト!」
おい、と半眼で睨みつけるヤマトに、太一はいつものニカリした笑顔を見せた。そして、勢いをつけて立ち上がる。
「やろうぜ」
自分に向かって手を差し出す太一にヤマトは小さく笑って。
「おう」
とその手を掴んだ。

その時。
「自分達だけでやるつもりですか?」
「ずるいわ、私達だって必死に太一を探してたのに除け者だなんて」
二人の後ろから聞き覚えのある声がかかった。振り向くとそこにいたのは、年下の後輩やら同級生の女の子やら年上の先輩やら見覚えのある面子で。
「お前らっ!」
「太一さんもヤマトさんも狡いんだからっ!私だってパルモンに会いたいもんっ!」
「そうだよお兄ちゃん。僕、ずっと神様にお願いしてたんだよ」
「私だってテイルモンに会いたい、お兄ちゃん」
「紙ひこうきだなんて確かに突拍子もない案だけど、やらないよりいいんじゃないかな。もしかしたら届くかも知れないしね」
口々にそう言う彼等を見遣ってから、太一とヤマトは顔を見合わせて笑った。
そして。
「んじゃやるかっ!」
力強くそう言い切った少年は、先ほどまでの弱りきっていた少年ではなく、あの時彼等を先導していったリーダーの少年の姿だった。


石段の1番上に横一列に並んで、子供達は紙ひこうきを構える。
それぞれの紙ひこうきの中には、それぞれが自分のパートナーデジモンに宛てた文章が書かれていて。
届きますように、と強い想いを込めて、自身の紙ひこうきを握った。
「よし!投げろ!」
その太一の合図でみんな一斉に紙ひこうきを空へと放った。ゆらゆらと頼りない力で飛ぶそれを、みんなが一心に『飛べ、飛べっ!』と念じる。
その願いが通じたのか、強い突風が吹いて、彼等の紙ひこうきを空高くへと舞い上げた。
あっという間に見えなくなった自分達の紙ひこうき。それをしばらくの間見送ってから、子供達は自分達の家へと帰って行ったのだった。

――――――――空高く舞い上がった紙ひこうきが、自分達の大切な存在へと届くように祈りながら。






・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・



・・・・・・



・・・・



・・・


・・








空は限りなく青い。
広い広い空を焦がれるように見つめるのは、君が空へと帰ったからだよ。





オレンジ色の小さな恐竜のような姿をした彼は緑が広がる草原に寝転んでいた。サラサラと吹き抜ける風を身体に受けて、彼は無邪気な笑みを浮かべる。

『気持ちいーだろ?アグモン』

かつて横で寝転んでそう言った君は、今はこのセカイにはいないけれど。

「うん、たいち」

君はいつまでも僕のとなりにいるよね。
そして僕も君のとなりにずっとずっと居るよ。



自分のパートナーを思い出して、アグモンは心がポカポカした気がした。胸に灯る温かな想い出に小さくクフフッと笑い。アグモンはニッコリと笑みを浮かべて、寝転んだまま大きく伸びをした。

とその時、急な突風が横から吹き付けてきて、辺り一面の草木を激しく揺らした。一瞬ザワッと唸った木々を見上げてから、アグモンはポカンと口を開ける。

アグモンはすぐ近くにあった木に何か白いものが引っ掛かっているのを見つけたのだ。


「…?」

見たことのないソレを少しの間見上げてから。

「よいしょっ」

アグモンは木によじよじと登り始めた。
長い爪が少し邪魔でなかなか登れなかったが、なんとか登り終えたアグモンは木の枝伝いに白いそれに近づいていく。
そして風に飛ばされないうちにそれを手に取って、丈夫そうな枝に腰を下ろした。

「なぁに?これ~?」

みたところ三角のような形に折られたものだった。それを暫く上から、下から、と観察した後、ふと折られたところを開いてみる気になった。
カサリと小さな音を立てて開かれた中には、黒い記号みたいなものが書かれていて。でも見たところ、それはデジモン文字ではない。


「~~よめない~!」

だから当然アグモンには読める訳がなくて。それでも面白いものを見るようにしげしげと上から眺めていると、白いものの下の方に見知った記号を見つけた。

そう、これは――――――。



『いいか?アグモン。これが俺の名前』
そう言って、太一は地面に木の棒で"たいち"とゆっくり書いた。アグモンはわくわくした気持ちでそれを眺めていて、太一に続いて"たいち"とそれを読み上げる。
そして書いてみろよ、と太一が言うのに従って、アグモンは指の爪で"たいち"と地面に書いてみた。

なんだか面白い。
それに太一の名前を書ける自分がすごく誇らしくなった。

その後も太一はアグモン、ヤマト、空、カブモン、ピヨモン、光子郎などの名前を順に書いていったが、太一の名前にずっと気を取られていたアグモンはよく覚えていなかった。

でも太一の名前だけはちゃんと頭の中に残っていたのだ。



白いものの下方に書かれていたのは、アグモンの頭にずっと残っていた"たいち"に違いなかった。

「たいち…?」

もしかして、たいちなの…?


アグモンの声には、喜びの色が含まれる。
紙を持つ手が少し震えた。だがそれも仕方なかった。
なにせ、太一と会えなくなって、もう数ヶ月なのだ。


"たいち"と書かれた記号の横には右向きの矢印が引っ張ってあって。その隣には、オレンジ色の身体で大きく開いた口には白い牙が生えた何か、多分生き物が描かれていた。

「…?」

オレンジ色…。

アグモンは自分の身体を見下ろして、小首を傾げた。見下ろした先にあったのは、オレンジ色のてっぷりしたお腹。
それを確認して、アグモンはクリクリした目を大きく開けた。

もしかして。
この白いものに描かれたオレンジ色の生き物は。

「ぼく?」

“たいち”→”ぼく”。
そこまで思い至って、アグモンはようやくこの白いものが太一から自分に送られてきたものだと理解した。

途端に嬉しくなって、またクフフッと笑う。
太一が僕にくれたもの。全く読めないけど、これはぼくの大事なものだ。

白いものを胸にぎゅっと抱いて、アグモンは空を見上げた。


たいち、きみはこの世界にはもういないけど。
またいつか会えるって信じてるよ。


「ありがとぉ、たいち」

大好きで大事なパートナーへ。


―――――-―「「また会おう」」。








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太一はデジタルワールドへの執着が人一倍強いと思う。
それはあの世界に必要とされていたという自負と、自分の分身への強い思いから来てるのかなぁと思ってみたり。
ちなみにこの時点では、まだ彼らはデジタルワールドへ再び行けていません。時間軸でいうと、デジタルワールドへ行って帰ってきた年の正月ってところかな。
しかしなぜ私が書く太一さんはあまり男前でないのでしょうか…(ションボリ)。



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