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ぼくとも。 |

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Posted by 春乃 綺 on  | 

君に傘を、俺に君を 前編(ぽルカ)


今日の早朝から降り続く雨は、出かけ方にバケツをひっくり返したかのようなものへと変わった。先程からひっきりなしに叩かれるこの傘の限界も近いだろう。
雨によって煙る視界に目をひそめ、俺は大きな溜め息を吐き出した。

「こんなことになるならば、出掛けるのではなかった…」

天気予報ではここまで酷い雨が降るとは言っていなかった。だからこそ、こうして出掛けてきたのだが、どうやら失敗だったらしい。
初めはあちこちに出来た水溜まりを避けながら慎重に足を進めていた。が、

バッシャアァァ

といっそ馬鹿笑いでもしたくなるくらいの水をズボンと靴に浴びせられてからは、気にするのも馬鹿馬鹿しいと行く手を遮る水溜まりに自ら足を突っ込んで帰路を急いでいる。布が肌に張り付く、なんともいえない気持ち悪さには、当然のごとく目を瞑る他なかった。




やがて一本道の細道は大通りと合流を果たす。
だが、途端に目前を埋め尽くす人の多さに辟易し、自然と足は止まっていた。
傘があると余計にひしめいているように見えるその通りに入るには、なかなか心構えがいる。
小さく息を吐いてから、俺はその人の波に足を踏み入れ―――ようとして、片腕をとられ引き止められた。

「―――っ」

驚き振り向くと、そこにいたのは一人の女だった。雨に濡れた桃色の前髪からは雫がポタポタと落ちて、青ざめた頬を伝っていく。彼女はずぶ濡れの真っ黒なワンピースだけを身に纏っていて、その手に鞄はおろか傘もなかった。


「…何か用か?」

そう訊くと、それまでの彼女の嬉々とした顔が失望のそれへと変わった。

「―――ちがう」

感情の感じられない口調でそれだけ呟いた彼女は、興味が失せたのか、くるりと俺に背を向けた。
よたよたと覚束ない足取りで大通りの片隅まで辿り着き、そこにしゃがみ込んで、彼女は暗い瞳で行き交う人の流れを眺めた。やがて間を待たずにまた立ち上がった彼女は、ひしめく人の群にスルリと入り込み、薄紫の傘へと近付き、数秒後、再び死んだような顔で元いた場所へと戻る。それを繰り返し行う彼女を、俺は暫く見つめていた。

彼女は決まって薄紫の――否、菫色の傘へと近付いていた。

それを見て取り理解した俺は、ズカズカと彼女へと近付き、その腕を掴んで引き止めた。


「――――っ!?」
すると、それまで生気のない目をしていた彼女の目に一寸光が戻る。彼女は大きく目を見開いた。

「行くぞ」

俺は彼女の腕を引き、目を巡らせ、雨を凌げる場所を探した。暫(しば)し驚愕して固まっていた彼女はその間に我に返り、無言で俺の手を振り解こうとしていた。
それを力業で抑えつけて、「此処にいては濡れるだろう」と彼女に自身の菫色の傘を持たせ、空いた方の手を引いて歩き出す。

彼女はそれまでと一転し、奇妙なほど大人しく俺の後を着いてきた。
やや不審に思い、肩越しに振り返ると、彼女は青い目をゆらゆらと揺らして俺に握られた自身の手を凝視していた。

掴まれるのが嫌なのかと一瞬考えたが、それにしては彼女の今の様子は大人しすぎる。
試しに彼女の手を少し強く握りしめた。
彼女の瞳が一層大きく揺れた。

ふいにポロリと目尻から零れた涙が頬を伝い流れる。


それを手で拭って、彼女はやがて静かに泣き出したのだった。







「落ち着いたか?」
その問いに、彼女はぎこちなく頷いた。



彼女を連れて、俺が雨宿りの場所として選んだのは大通りの一角にある少し寂れたカフェだった。
ちょうど知り合いの経営するその店が近場にあったのは幸いだった。
マスターである知人にホット珈琲2つとタオルを頼み、観葉植物の裏手にある奥の席へと彼女を座らせる。
そして煎れたての珈琲を乗せた盆とタオルをそれぞれ両手に持ち、自身らの席の周辺の人除けをマスターに言付けた。

「一つ貸しだからね、がっくん」
「…分かっている」

ちゃっかりそんなことを言い渡す喰えない知人に嘆息してから、俺は彼女の座る席へと戻った。


彼女は微動だにせずに俯いたままだった。その頭(こうべ)垂れた頭にタオルを被せ、拭くように告げた。それでも彼女はピクリとも動こうとせずにそこに鎮座していた。
俺は少し苛立ったように嘆息すると、ガチャンと盆をテーブルに置き、彼女の髪をぐしゃぐしゃと掻き回すように拭いた。
後ろから「がっくん、女性に乱暴しちゃダメだよー」と知人の止める声が聞こえたが、知ったことかとばかりにくしゃくしゃにかき混ぜる。
早く帰りたいのに帰れない苛立ちが沸々と湧き上がってきたから、それを元凶である彼女の髪にぶつけたまで。
連れてきたのは自分のくせに、と他人が聞いたら咎められそうだが、同じく知ったことではない。大体、あれで放っておける者がいたら、そいつは鬼か悪魔だろう。俺は鬼でも悪魔でもないのだ、非常に面倒なことに。


タオルで水気を拭き取って、改めて俯く彼女の顔を覗き込んだ。
相変わらず薄暗い表情だったが、それよりも俺はグシャグシャな髪と整った顔とで釣り合いが取れていないことに笑いの線を刺激された。
みるみるうちに可笑しさが込み上げてきたが、なんとか僅かに口角を上げるだけに留める。
ぽかんとした彼女は目をしばたかせて、俺を見上げていた。その顔がまた可笑しいこと、この上なく。

「ひどい髪だな、大荒れだ。――梳かないのか?」

その言葉に突如、今の自分の状態を悟ったらしい彼女は慌てて手櫛で髪を整えようとした。
だが、絡まった彼女の髪は、地毛のウェーブと相まって手櫛でとけないほどきつく絡まり合っているようで。結局、彼女が痛みに顔を歪めるだけに終わった。おまけに指先が髪の間から抜けなくなったらしく、その様はすこぶる間抜けだった。
ついに堪えきれなくなって忍び笑いを漏らすと、気まずそうな彼女にキッと睨まれた。

「…笑わないで」
「ならば、それをどうにかすることだな」

それ、と己の髪に絡みつかれた彼女の指を指し示す。
すると彼女は決まり悪げにソッポを向いて、「…ほっといて」と小さく告げた。







(後篇へ続きます)







無力P様の楽曲「Brella」から。


初見で創作意欲が掻き立てられ、勢いのまま書きました。
こちらの曲の作詞様の書かれる詞が実は大好きな燈月です。

人様のがっくんとちょっと違いますが、これがウチのがくぽです。侍言葉じゃないけれど、そこはかとなく侍っぽくしてみました。受け入れられると嬉しいな。



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