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Posted by 春乃 綺 on  | 

僕らは「ピーターパン症候群」(太一+ヤマト)


なんかさぁ、俺らって、滑稽だよな。そう言って”現在”の少年たちは自身らを嘲笑う。
すると、コッケイだね。そうやって”過去”の少年たちは酷評を返すのだ。



冬もようやく終わろうという2月の末。ビュウビュウと風が吹き抜ける屋上で、少年が二人フェンスに背を預ける形で座っている。現在、屋上にいるのはこの二人だけ。というのも、この寒空の下、わざわざ昼ご飯を屋上で食べようという物好きは、そうそう居ないからである。
やはりというか、当の物好きの一人である茶髪の暴発頭の少年、八神太一も自身の腕をしきりに摩りながら、「さっびぃ!」ともう一人に向け不満を叫んだ。すると太一の横の金髪で端麗な容貌を持つ少年、石田ヤマトが「たりめぇだ。今、2月だぞ」と顔を顰め、ツレナイ言葉を太一に向ける。そんな素知らぬ顔の相方に、太一はちぇ、と漏らして、恨めしげな目でヤマトを睥睨した。

「でもよぉ、あと何日かで3月だぜ? 3月っていったら、もう気分的にもカレンダー的にも春だろ?」
「まぁ、そうだな。……だがな、俺はこの14年間生きてきて、3月1日ぴったりに春がきたの見たことねぇよ」
「あぁ、俺もないな!」

あっけらかんとそう言いきった太一を、ヤマトは呆れ眼で見やった。そして小さく嘆息し、ふとフェンスの外に視線を流す。感情の籠らない瞳でヤマトが視線をやる先には、グラウンド、そして―――彼らの通った小学校があって。しかし太一はそんなヤマトの挙動を黙止し、「あーぁ、2年ももう終わりかぁ」とひとり呟いた。太一のその言葉に応えるヤマトの言はなく。彼らは暫く互いに沈黙を保ったままでいた。
そうしてその沈黙を破ったのは、やはり太一で。
「なぁ」太一はヤマトに目をくれなかった。そして淡々とした口調で彼は続ける。「――ヤマト、お前、進路希望なんて書いた?」
太一の問い掛けに、ヤマトは一瞬息を止めた。そうして、ややあってから静かに言葉を落とす。

「――H高。…音楽続けたかったし、それ以外に興味を持つにも都合よかったから」
「…そっか」
「お前は?」
「Y高。サッカー推薦」
「お前らしい進路な」
「お前こそな!」

ヤマトはハハッと笑みを零し、視線を太一に戻す。そうすると太一もニヤリと悪戯っぽく笑った。やがて、どちらともなくガシャンと勢いよくフェンスに体重を預けると、二人の笑声は呆れたようなものへと変わっていた。

「あーぁっ。なんか、俺、今、無性に馬鹿馬鹿しくなった!」
「俺もだ」

やけっぱちな太一の言葉に、肯定するヤマトの言葉。
彼らが無性に馬鹿馬鹿しくなったのは、自分の願いと進路との大きな食い違いに対してだった。

「…大人になんて、なりたくねぇなぁ」

未来に向かうための進路と、子どもでいたい自身の願いと。決して交わることのないこの二つは彼らの心を散り散りに引き裂いていく。

―――彼らは、”あの頃”には存在し得なかった越えられない恐怖にぶち当たったのだ。

太一は途方に暮れた顔で空を仰ぎ、ヤマトは鬱々とした気持ちで隣の校舎へと視線を送った。
「俺さぁ」やがて、いつもと変わらない声色で太一がぼやく。

「初めて怖いって思った、あの時。大輔たちが―――選ばれし子どもになったとき。だって…俺らのデジヴァイスじゃ、もうデジタルワールドには行けない」
「………」
「俺らってあの世界にとって、もう用無しなったのかなってさ。無性に………怖くなって」
「………っ」
「あぁ、俺らがもう子どもじゃなくなったからなのかもって、あいつ等のやり方見てたら、なんか妙に納得でき―――」
「…っもうそれ以上言うな…っ!」

滔々と心のうちを紡いでいた太一の声をぶった切る形でヤマトが叫んだ。その拍子に口を噤んだ太一は、悲愴な面をぶら下げたヤマトを暫く静観した後、小さく息を吐いて。
「……悪ぃ」
気まずげに視線を逸らした太一に、ヤマトは声を潤ませながらも虚勢をはった様子で噛みつく。

「っの馬鹿っ! 認めちまったら、それで終わりだろう…っ!」

ヤマトが項垂れさせた首を左右に勢いよく振って、もうたくさんだ、と掠れ声で嘆く。

「これから、後何回猶予があるか、分からない…っ!これから後何回、あいつ等に会えるのかも…っ。もしかしたら、もうこの瞬間には行けないかもしれない…。それすら、情けないことに俺たちは大輔たちがいないと知る術さえ、ないんだっ!」

ヤマトの痛みを孕んだ声が太一の耳朶を叩く。あの頃より幾らか低くなったヤマトの声は、あの頃のように内心を切々と語っているようで、どこか諦めを含んだ色をしていた。
あの頃と違い、彼らは既に諦めることを覚えてしまっていた。
子どもの頃、希望に満ちあふれていた世界は、次第に彼らに不条理を押しつけはじめる。しかし、彼らは段々とそれに呑まれながらも、各々が各々で息のしやすい生き方を模索していく。

それを、人は大人になったというのかもしれない。
――――でもさ、こんな悲しいことってあるか?

「あぁ、大人になりたくないなぁ…」
太一は春先の冷たい風に吹かれながら、青い空を仰ぐ。その空はいつかに自分らがあの世界から還ってきたもので。
そうして少年は、焦がれるように抜けるような空に手を伸ばし続けるのだ。

「……大人になんて、なりたくない…」
ヤマトは底冷えのするコンクリートに体温を奪われながら、隣に立つ小学校の校舎へと視線を送る。そこは唯一、あの世界と確かな繋がりがある場所で。でも自分らには、もう自身らの力でその扉を開く術はなく。
そうして少年は目の先にあるフェンスに手を掛け、羨むように小学校の校舎に視線を送り続けるのだ。






なんかさぁ、俺らって、滑稽だよな。そうやって”現在”の少年たちは自身らを酷評する。
すると、うん、コッケイだね。そう言って”あの頃”の少年たちは自らの未来を嘲笑う。
だって、諦めることを知った僕らは、もう僕らじゃないから―――――

そう考え未来を悲観するのは、実は”あの時から”の自分たちなのだ。









そう、僕らは「ピーターパン症候群」









太一+ヤマト。

タイトルにもなってる「ピーターパン症候群」という言葉は、私のデジ論の大前提です。前サイトのサイト名がこれだったのはそういう訳です。

デジタルワールドに行けるのは、この時点では、選ばれし「子供」のみ。
そう、子供である必要があるのです。しかし、子供・大人という概念は非常に曖昧。

この時点で太一たちは子供からの脱却を始めています。当人の意志と関係なく。
彼等はデジタルワールドでの冒険で、同年代の子供より精神的に成長してしまいました。が、彼らは子供に括られなくなることが恐ろしい。だって、大人になると彼等はデジタルワールドにとって異分子となってしまうから。

そんな葛藤を描いたのが今回の小説なのです。

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