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ぼくとも。 |

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Posted by 春乃 綺 on  | 

Adolescence 1-Un- (レンリン)

ずっと二人だけの世界で生きていけたらよかった。

でも"俺ら"は姉弟で、さらに他人で、歳を重ねるごとに互いの心さえ違(たが)えていくのだ。







Adolescence 1-Un-








 幼い頃から俺とリンは隣同士に立って、同じように育ち、同じように物事をとらえ感じてきた。
 ――――だって俺らは姉弟。そこに男女の隔たりなど関係ない。そう、関係ないはずだった。だが、そんな楽しく開けっ広げな関係が音を立てて崩れたのは、俺とリンが14のときだった。

「………お前たちは義姉弟なんだよ」

 父さんの部屋に二人で呼び出されて告げられた真実。"俺とリンに血の繋がりはない"。さらに俺は父さんや母さんとも血が繋がっていなかったのだ。
 何言ってんの父さん、その冗談全然笑えなんだけど、と笑い飛ばせたならば良かった。だけど俺たちにその事実を伝えたときの父さんの顔があまりにも真剣だったから。俺はその事実をそのまま受け入れるしかなかったのだ。
 でも、それじゃあさ、血の繋がりのない俺の、この家での立場はどうなるの。父さんが他人で、母さんも他人で、リンも……。
 目の前が真っ暗になるということを初めて体験した瞬間だった。俺は顔を真っ青にして茫然自失に陥った。ふらふらと足元が覚束なくなり、自分が今どういう状態でいるのかさえ分からなくなった。その時、服の裾を引っ張られ、意識をこちらに戻される。
「レン……」
 俺の意識を戻したのは、それまで自分にとって姉という位置付けにいた少女だった。彼女は俺を不安げに見つめ、「大丈夫か」と尋ねる。…大丈夫なんかじゃないと思った。当然だろう。しかしそのことを元姉であり今他人であるリンに言えるわけもなかった。急にリンが見知らぬ女にしか見えなくなる。そこでリンの弟としての"俺"は終わりを迎えたのだ。


 それからだった。
 俺は父さん・母さんを名前呼びするようになった。そうして距離を置き、その家に存在する"家族"という空間から自分を守った。"リンの"両親はそんな俺に何も言わなかった。ただリン一人が自身らから離れていく俺をあの手この手で引き留めようとした。
 それまでリンと同室だった俺が部屋を分けてくれとリンの父親に進言したときも、リンは「嫌だ嫌だ」と泣いて喚いた。

「レンはリンの双子の弟だもんっ!ずっとずっと一緒に寝るんだから!」

 リンは自身の父の前で散々ごねて、終いには俺のベッドの上でふて寝を決め込み、そこから一歩も動こうとしなくなった。そんなリンに、すっかり困ったリンの父親から「なんとか説得してくれないか」と頼まれたのは他ならぬ俺で。俺は迷わず頷き、その頼みを承諾した。この家に置いてもらっているからには家主の命に従う義務があると俺は勝手に思っていたのだ。
 リンの部屋に俺が一人で入っていくと、彼女は泣いてべそべそにした顔をぱっと輝かせた。あまりにも現金な彼女の様子に、俺は苦笑を禁じ得なかった。隣同士に二つ並べられたリンと俺のベッド。俺はリンのベッドの方に腰掛け、彼女の名前を呼んだ。

「リン」
「なぁに? レン」
「部屋分け、しよう」

 俺がそう言った途端、リンはガバリと布団を跳ね退け起き上がった。そして自身のベッドに座っていた俺に詰め寄り、悲痛な声で叫ぶ。

「イヤァアっ! なんでっ!? なんでレンまでそんなこと言うのぉっ!?」

 リンの大きな瞳からはボロボロと涙が零れ落ちていた。今までの俺だったなら、その涙を拭ってやり、その悲しみを取り去ってやるくらいのことはしていた。それが俺の役目だったから。だけど、その涙を拭うのはもう俺ではいけないのだ。詰め寄ってきたリンを無感情な瞳で見つめる。そして俺が無情にも口にしたのは、

「だって俺はもうリンの弟じゃない。他人同士が一緒に寝るのはおかしいだろ?」

 という彼女を奈落の底へと突き落とす言葉だった。リンは目をいっぱいまで見開き、愕然とした様子で「……なんで?」と呟く。リンのアクアマリンの瞳からは涙と一緒に光が流れ出していき。みるみるうちに光を失っていく彼女の瞳を見て取って、それでも俺の心には何も響いてこなかった。


「部屋分け、するね?」

 再度念押しするようにそう告げた俺からリンは目を逸らした。黙りこくって掛け布団をぎゅっと握りしめる彼女の拳はカタカタと小刻みに震えていた。

「リン」彼女の名前を硬い声音で紡ぐ。それはどこか脅迫と似ていた。
「…」リンは視線を下げたまま、何も言わなかった。やがて俺は溜息をついて、「……そう」と低い声を吐き出す。

「じゃあ俺は最悪、この家を出ていくことになるのかな」

 俺のその言葉にリンは顔をくしゃくしゃに歪めた。そして彼女は何度も何度も首を横に振っては、俺の胸元に縋り付く。
 だけど、リンが部屋分けを拒むならば、最悪行き着く末路はそこだ。リンの両親達が俺達の同室を善く思っていないのは、薄々感じ取っていた。大事な一人娘が、元弟とはいえ思春期に至った男の横で寝ることを、善しとする親など何処の世界に居ようか。そしてそれはリンに説明するまでもなく、彼女自身も分かっていることだろう。
 やがて散々泣いたリンはぐちゃぐちゃになった顔で俺を見上げ「…分かった」と小さく頷いた。

「でも一つだけお願いがある」
「…? 何?」
「寝るまではリンと一緒にいて」

 それは果たしてどうなんだろうかと思った。そもそも俺とリンが寝る前に一緒の時間を過ごすこと自体に問題があるような気がするのだ。それは"そういう"行為に結び付きやすい。だが、リンが妥協したのに、自分だけ我を通すわけにもいかない。それゆえに仕方なく俺もリンの要求をのんだ。

「…でもリンの部屋には入らないからね」
「それでもいい」

 間髪入れず俺の言葉に返事を寄越して、リンはズズッと鼻を啜った。その様子が酷く幼く見えて、俺の脳内にはかつてのリンと俺の姿が浮かぶ。リンが暗闇が怖いと泣いたら、電気を点けたまま一緒のベッドで眠った。それは在りし日の姉弟としての俺とリンの姿で、今の俺らには有り得ない姿だった。―――そう、有り得ない姿なのだ。だからこそ。


「レン、大好きだよ」


 在りし日と同じように紡がれたリンの言に、返す言葉は見つからなかった。













シグナルPの楽曲「アドレサンス」から。
実は数カ月も前から温めてきたネタでした。アドレサンス好きです。
それからリンレン書きやすくて吃驚した。




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