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ぼくとも。 |

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Posted by 春乃 綺 on  | 

8月の地図(光子郎)



はじまりは、あの夏の日。









8月地図








友人との待ち合わせ時間まで、あと50分。
今8時10分前だから、9時15分位に出れば間に合うかな。
頭の中でそんなことを考えながら、今日必要になるだろう参考書や問題集を机の上の本の山の中から抜き出して、鞄の中に詰めていく。

机の上に山が出来始めたのは今年になってからのことだ。わりあい几帳面な方だと自他共に認めている自分には考えられない現状だと思う。
だが、自分は今年高校三年生。つまりは受験生であるので、仕方ないといえば仕方ないことだろうか。
……なにしろ必要な本類が多すぎるのだ。

そのせいで以前はいつも机の上に置いてあったあのパイナップル印のノートパソコンは、今は仕舞われ、机の脇に除けてある。
それを見た、とある先輩は『うわっ!マジで?最近雨なの光子郎のせいなのかー』などと大変失礼なことを吐(ぬ)かしていた。
というか。

「僕に言わせれば、去年の貴方の方がずっと変だったんですが…」

なにしろ勉強嫌いなあの人が毎日必死になって受験勉強していたのだから。まぁそのおかげで第一志望の大学に合格したのだけど。
絶対落ちると担任にも言われていたのに。


「と、そんなことを考えている場合ではありませんでしたね」

くだらない思考で一時止まってしまっていた手を再び動かす。とりあえず今日、やる予定の参考書類は全て持ったはずだ。
ふぅと一息吐いて、鞄を持って立ち上がる。
と、そこで仕舞い込んであるノートパソコンが目に入った。

「そういえば最近パソコンのメールの確認してないな…」

気がついてしまったのなら、確認しないと気が収まらない。
それは自分の性分である。



幸い今日の勉強会の面子は、二人ともあまり遠慮しなくていい相手だ。
多分、多少遅れて行っても、眼鏡の奥で苦笑する奴と何か奢れば簡単に機嫌を直すような奴だから。………まぁ小言は貰うかもしれないけども。

ちょっとゲンナリしつつも久しぶりにノートパソコンを立ち上げる。
やはり結構な数のメールが届いていた。それらを慣れた様子でいるものだけ残し、後は削除という行為を繰り返していく。

と、珍しい名前に手が止まった。

いつもは携帯の方にメールしてくるのに。
とりあえず開いてみると、それは毎年行われている"8/1計画"の誘いのようだった。
どうやら今年は受験の自分を気遣って、わざわざパソコンの方にメールしてくれたようだ。返信が来なければ、『忙しいため、光子郎は欠席』とするつもりだったのだろう。気付けてよかった。
この日は自分にとっても、仲間たちにとっても、大切な日だから。




8月1日。

自分達がデシタルワールドという名の異世界に呼ばれた日。





「…今年も、もうそんな時期なんですねー」
小さくそう呟いた。

ふと思い立って、机の一番下の引き出しをゆっくりと引いた。
そしてその中の一番底に埋もれているモノを取り出す。



以前は自分をあの世界へと導いてくれたもの。

――――――今はあの時が夢ではないと思わせてくれる唯一つのもの。



もう時計としてしか、役に立たなくなってしまったそれは、自分にとって多分相当価値のあるものだ。


何度、これを目の前のノートパソコンにかざしただろう。

何度、絶対に開かれない異世界への扉に落胆しただろう。


――――何度、もう随分会っていない、自分の半身とも呼べる赤と黒の君に思い馳せただろう。



『こうしろーはん』
耳の奥で響く懐かしい君の声。
もしかしたらもう一生会えないかもしれない、君の声。

「元気、に…してるでしょうか…?」

手の中のものを見つめながら小さく呟いた言葉は誰かに届くことなく、口先で消えていく。

「元気…に………」
もうそれ以上は言えなくなってしまった。
口に出したら、胸の奥に閉じ込めた感情が溢れ出てしまうようで。


役目を終えて、ただのプラスチックの塊と化したそれをなんとも言えない思いで見つめる自分は酷く滑稽だと思った。


いっそ投げ捨てられたらよかったのだ。
もう要らないものだと。先程、要らないメールを削除したみたいに。

腕を振りかぶって、そして、やめた。



「…くそっ」
唾棄したいくらい情けない自分。

本当に削除したいのはそういう自分だったなんて、とっくに気付いている。



とんだ笑い話だろう。



ネガティブな思考を振り払うように、手にしているものを太陽に翳した。
それは、まるであの時のような眩い光を放っているようで――――……。



「なんだか馬鹿みたいですね…」

苦笑して、ギュッと小さな機器を握りしめた。プラスチック製のそれは醜く軋んだ音を立てる。
そっと両手で包み込んで、「…テントモン…………」と呟いた自分に酷く虚しさを感じた。








「光子郎ー、そろそろ時間的に出発しないと、まずいんじゃない?」
ノック音と共に聞こえた声に、はっと我に帰った。

「はっ、はい。もう出ます」
慌てて付けっぱなしだったノートパソコンを消して、そう返事する。そして持っていたデジヴァイスを閉じたノートパソコンの上にそっと置いた。





「…いってきます」

足早に己以外誰もいなく、ひどくさびしげな部屋を出た。時計をみると、本当に時間的にまずい時間になっていたので、急いで玄関に向かい、靴を履く。
後ろから「光子郎」と母に呼び掛けられて、首だけで振り向くと。

「今日はお友達の家で勉強するのよね?」

「えぇ。ですからお昼ご飯はいりません」

「そう、わかったわ。―――はい」

そう言って手渡されたのは、帽子。


これは?と目だけで問うと、母は外を指で差して微笑った。
「今日暑いから熱中症になっちゃうわ」
母の気遣いに有り難く思いながら、帽子を深く被る。


―――今の自分にあの太陽の光は、眩しすぎた。




「それじゃ行ってきます」
「いってらっしゃい」

玄関口で手をふる母に見送られて、時間ギリギリで家を出た。















友人の住むマンションに向かう途中、目の前を一匹のアゲハ蝶が掠めていった。

そのアゲハ蝶は己の回りを一周した後、空に向かって飛んで行く。

雲ひとつない、あの空に。その先に、なにも遮るものはなく。



―――――僕はその蝶が羨ましく思えてならなかった。









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おめでとう8/1!なのに、ぜんぜんめでたくない小説で本当にすみません!
この小説も前サイトの改良小説です。(はたして改良になっているかは分かりませんが…)

ちなみにタイトルの8月の地図は、私の中ではデジヴァイスのイメージです。
『選ばれし子供達をデジタルワールドに導いた』『仲間の位置を正確に示してくれる地図的機能を備えている』
世界に八つしかない、選ばれし子供専用の"地図"です。…うん、私も選ばれてデジヴァイス欲しかったよ…。

あ。あと、この話では、デジタルゲートは02以降開いていない設定になっています。
だからパートナーデジモンともあれ以来会っていません。

以下、小説のネタバレ。見たくない方はバックプリーズ。



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Category : ss
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